通過儀礼(イニシエーション)とは、人の成長過程で次の段階に入る節目において新しい役割や身分を獲得することを自覚する儀式です。

中高年にとってのイニシエーション

イニシエーションはキャリア面では、学生から社会人へと向かう新入社員が、理想と現実とのギャップを乗り越えて適応していくプロセスについて述べられることが多いものです。しかし、イニシエーションは新入社員ばかりが経験するものではありません。

3月は異動の時期でもあり、中高年の皆様の中にも全くこれまでのキャリアと異なる仕事に就くこととなる方も多くおられることでしょう。

面接では、中高年の方から、異動先の環境になかなか馴染めないというご相談もとても多く寄せられています。数年前にその仕事に就いていた場合ですら、顔ぶれが変わっていることはもちろん、システムから仕事の仕方、評価の仕方まですっかり変わってしまったということもあります。

ベテランとして前任で自信を持っていた人、役職として新任地に赴く人の場合は、本人も周囲も、「これくらいはできて当然」と考えがちです。

この世代は本人がサポートを求めることに抵抗があり、また周囲も本人へのサポートの必要性を感じない場合が多く、ひとり焦りを募らせてしまうことがよくあります。自分や周囲の期待と現実のギャップをどう乗り越えるか、このイニシエーションも中高年のキャリア形成にはとても重要なプロセスと思います。

グループ・イニシエーションとタスク・イニシエーション

米国の産業組織心理学者のD.フェルドマンは、イニシエーションには次の2つがあると考えました。

① グループ・イニシエーション:職場のメンバーに、仲間の一員として認めてもらうことが課題

② タスク・イニシエーション:仕事面できちんと貢献できることが課題

フェルドマンの病院看護師を対象とした調査では、仲間の一員として認めてもらえないと仕事面でも貢献できない、すなわち、グループ・イニシエーションがタスク・イニシエーションに先立つ、ということがわかりました。

もちろん職種によっては仕事で貢献できるまでは仲間とみなされないという考えの職場もあるでしょう。しかし、昔と異なり、かなり専門化した業務形態が一般的になりつつあることを考えますと、どんな年齢、立場の職員を迎える場合においても、キャリアチェンジを経験している場合には、その方が早く職場で貢献できるようになるためにも、まずは仲間からのサポートが必要と思います。

中高年の方の多くは、なかなか自分から“わからない”、“教えてほしい”と言えないようです。まずは職場において仲間として受け入れられるよう、本人も努力するし、職場の同僚も温かくサポートする、そんなグループ・イニシエーションが早期に実現すると良いと思います。