ど忘れとは、当然知っているはずのことなのに、どうした拍子かそれまで覚えていたものを不意に思い出せない、知っているはずのことをふと忘れてしまうことを言います。

皆さんも仕事や試験などの場面での苦い経験がおありと思いますが、実は私、つい先日の研修で、ど忘れが起きました。

ご質問への回答の際に、これもお話すると役立つかと思ってプラスアルファの心理知識のご紹介を始め、4つのポイントが全て揃ってやっと価値のある知識ですのに3つまですらすら出た後、最後の一つが、どうしても思い出せなくなりました・・・調べ直して、ほどなくお答えできたのですが、大変焦りました。

人は20歳ころから神経細胞が減少して忘れやすくなるといわれていますが、加齢を原因にしたくないこともあり!ど忘れについて考えてみたいと思います。

忘却の原因

学習した内容や情報が減少・消失してしまう原因には以下が考えられています。

①減衰:時間の経過とともに失われていく

②干渉:複数の記憶が干渉しあうために忘れてしまう。過去に学習した内容の記憶が強くて新たな学習内容が思い出せない場合と、逆に新たな学習内容の記憶が強くて過去の学習内容が思い出せない場合とがある。

③検索・取り出しの失敗:記憶がなくなっているわけではないが、検索・取り出しの機能が落ちている。脳に入った情報が多すぎて脳が疲れた状態である時に起きやすいといわれている。

④抑圧:精神的にショックを受けた出来事は一時的ないし長期的に抑圧を受けるため、意識的に思い出せなくなる。

今回のど忘れの分析

このように忘却の原因を知ると、自分のど忘れの苦い経験が、その時々、様々な原因で起きたことがわかります。今回のど忘れは、しばしば研修の場で紹介してきた、私にとっては頻出の心理的知識で起きてしまいました。

今思えば、要因で一番大きいのは③の検索・取り出しの失敗です。研修という場で、終わりの時刻を気にかけつつとりあえず話始めてしまい、皆の注目もあってプレッシャーがかかり、脳の疲労が起きていて記憶の検索がうまくできませんでした。

また、②の干渉の影響もありました。4つのポイントの紹介をしたのですが、いつもの順番で説明するつもりが、振り返ってみたら4つ目(最後の情報)のポイントを先に3つ目として紹介してしまったのです。そのため、3つ目のポイントの記憶と4つ目のポイントの記憶が頭の中で干渉しあったのだと思います。

ど忘れの故事から考える対策

ど忘れは、「度を持つことを忘る」という故事に由来するそうです。靴を買うために足の大きさを測って書き付けたが、市場についてから、その書付を忘れてきてしまったことに気づき、書付を取りに戻ってから再び市場についたら、もう店は閉まった後だった、という話です。

その由来を見て、まさに私もそうだったなと大いに反省しました。そもそも、話始める前に4つのポイントを提示できるか、あらかじめ準備として記憶を確かめ、「度」を持ってから話始めればよかったのです。そして、もし咄嗟に4つ目が思いつかず、「度」が持てないのであれば、そもそもその知識は提示しないという選択がありました。

取り急ぎ話し始めてしまったので、後に戻れなくなってしまいました。ここは加齢の影響を認めざるを得ないですが、やはり、自分の記憶を頼らず、きちんと準備することが大事と実感しました。

おわりに

ところで、ど忘れというのを調べていたら、ポケモンの技に「ドわすれ」というのがあるそうですね。何かを一瞬忘れることで特殊防御を上げる技なんだそうです。ポケモンも脳の疲れや記憶の干渉があって身を守るためにこの技を使うのかしら・・・DOWASUREの歌も最近出たようです。ど忘れで落ち込んでいましたので、ゆる~い歌で癒されました。

「ドわすれ」は忘れることで自分を休める技と理解ができ、「ど忘れ」のポジティブな側面なのかもしれませんね。私の例は完全に失敗例ですが、仕事や試験に影響しない範囲の「ど忘れ」であれば良しとして、落ち込みを引きずらないようにしましょう。