“バウンダリー”とは、自分と他者との境界線のことです。混迷を深める世の中ですので“国境”を巡る争いや、新型コロナウィルス防止の“水際”対策など、物理的なバウンダリーに関する様々な話題が目に付きます。

心理面でもバウンダリーはとても重要です。コロナ禍で人の交流の機会はしばらく減っていましたが、このところ徐々に戻ってきている気がします。誰しも人との距離感が薄らいでしまっていますので、お互い思ったような人間関係にならずに困ることも多いでしょう。 そこにバウンダリーの問題が絡んでいることがあります。例えば次のような例です。

・順番に並んでいたが、横から人に割り込まれる

・他の注文をしたかったが、皆が同じ注文なので、私もそれでと答えてしまう

・担当外の仕事なのに押し付けられる

・自分の意見が言い出せず、人の言うなりになってしまう

・親切心のつもりだったが世話を焼き過ぎて嫌がられる

自分の領域と人の領域、その境目を示すバウンダリーの意識が曖昧だと、このような状況にしばしば遭遇し、イライラしたり、不安になったりするものです。

世の中が混迷を深めるからこそ、自分の心を守っていく。年始初めのコラムは、心を守る上で重要な役割を果たすバウンダリーについてお話します。

日本人はバウンダリーが曖昧な民族

日本人はバウンダリーの概念が曖昧な民族と言われています。海に守られ、外敵に侵入されるという文化的な傷が少ないのがその一因で、農耕民族として生きてきたため、個人よりグループとしてのバウンダリーが大切であると考えられがちです。

調和や協調はもちろん重要ですが、①バウンダリーに問題がある人(感情的、支配的、高圧的等)に対応していくため、②自分自身が尽くし過ぎて燃え尽きないためには、自分のバウンダリーが健全であることが大切です。

健全なバウンダリーの特徴

自分の領域(管理責任範囲)が明確で、「何に対して責任を負う必要があり、何に対してはその必要がないのか」わかりやすくなります。そのため、以下の効果があります。

・主体的、自発的行動が促進される

・他者および自己が尊重される

・人間関係が向上する(程よい距離、支配しようとせず・されることもない)

・ストレスが軽減する(安心感、安定感)

・燃え尽きが回避される

 

不健全なバウンダリーの特徴

どこまでが自分の責任範囲で、どこから他者の責任範囲が始まるのか、認識が曖昧なので、以下の問題が生じます。

・自分の領域外の事柄に対しても、他者の要求に応じようとしてしまう

・過剰に責任を取ろうとする

・NOと言うことで誰かを失望させたり、自分が批判されるたりすることを強く恐れる

・他者がNOということを受け入れられない

このため人の言葉に惑わされやすく、幸福感を感じにくい、不安や気分の落ち込み、燃え尽きなどに困ることがあります。

 

健全なバウンダリーを設定するには

心のバウンダリーという概念そのものが多くの方にとっては目新しいと思います。

まず、バウンダリーという概念が心の中にもあるのだということを意識することが大事です。“境界を引く”と聞くと、わがまま、冷たい等連想する方がいるかもしれませんが、壁を自分の周りに巡らすこととは違います。

列に割り込みする人を見かけた時、「今並んでいます。後ろにお並びください」と、自分の状況を客観的に伝えた上で気持ちや考えを述べることが健全なバウンダリーの設定の例です。横入りを苦々しく思いながら容認するのは不健全なバウンダリーとなります。

無理な仕事の頼みを引き受けるかは状況によって柔軟な対応になるでしょう。自分がここまでは協力できるということを示しつつ、応じることが難しい場合は理由を丁寧に伝えて上手に断って良いのです。これが健全なバウンダリーです。一方的に我慢してしまうのは不健全なバウンダリーで、ストレスが高じてしまうでしょう。

バウンダリーが弱い方の特徴の一つとして、自分がその状況にどのように感じているのか、特に不安や恐れ、怒りの感情について、その場では気づかないことがあります。自分の気持ちより他者の気持ちを優先し、本当の自分にぴったりと蓋をしてしまっているためです。ある時突然堰を切ったように怒りがこみ上げることがあります。

自分の気持ちを大切にして、勇気をもってちょっぴり自己主張してみましょう。話してみると、自分が思っていたほどの心配はないことに気づくでしょう。

今年一年もまだまだ先行きの不透明感が強そうです。何とか自分の心、大切な他者の心を守りながら過ごしていきましょう。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。