28年度の「個別労働紛争解決制度の施行状況」が発表されました。随分とものものしいタイトルですが、個々の労働者と事業主との間の労働条件や職場環境などをめぐるトラブルを未然に防止し、早期に解決を図るため平成13年度以降整備された制度で、都道府県労働局、駅近隣の建物など380か所に寄せられたあらゆる労働問題に関する相談状況を取りまとめたものです。

28年度の民事上の個別労働紛争相談の特徴

28年度の民事上の個別労働紛争相談件数は255,460件、1位はいじめ・嫌がらせ 70,917件、2位は自己都合退職40,364件、3位は解雇36,760件でした。

民事上の個別労働紛争といえばかつては解雇に関する相談が長年首位を占めていました。しかし解雇に関する相談は、リーマンショックの影響で21年度69,121件とピークに達した後、右肩下がりで28年度はほぼ半数となっています。一方、いじめ・嫌がらせの相談は右肩上がりの傾向が続き、24年度に首位に転じてから5年連続首位となっています。21年度は35,759件でしたので、この7年間でほぼ倍増したこととなります。

助言指導の例として、“日ごろから「のろい」「お前は使い物にならん」などの暴言を受けたほか後ろから蹴られて転倒するなどの状況があり、上司が周りに気付かれないよう行っているため会社に話しても仕方ないと思い、職場環境の改善とその上司とは別の異動を求めて助言指導を申し出た”というケースが提示されています。

いじめ・嫌がらせがもたらす影響

このケースにおいて心身の不調がどうであったかはわかりませんが、厚生労働省が行った職場のパワーハラスメント実態調査(H29)によれば、パワーハラスメントにあった人の75.6%が怒りや不満、不安を感じ、23.3%が眠れなくなった、12.3%が通院や服薬をしたと答えています。また68%が仕事の意欲の減退、35%が職場のコミュニケーションの減少を上げており、パワーハラスメントの影響は心身の健康を阻害するばかりでなく、仕事の意欲、生産性、コミュニケーションなど職場環境全体を悪化させることが明らかです。

いじめ・嫌がらせは、上司から部下へ、先輩から後輩へ、といった職務上の地位ばかりでなく、部下から上司へ、後輩から先輩へなど、専門知識、経験などの職務上の優位性を背景とするものもあり、その意味では誰しも加害者にも被害者にもなりえるものです。

働き方改革で、残業制限、有休消化の推進など働きやすさや生産性向上に向けて各社様々な取り組みが行われているところですが、職場の人間関係が生産性を阻害していないか、改めて見直すことが必要です。