学生から社会人へのトランジション(移行)は、喜びと同時にかつてない困難にも遭遇する、非常に複雑で難しい課題です。

とりわけ“就職以前に抱いていた期待や夢”と“現実”とのギャップによる「リアリティショック」をどう乗り越えるかは初めの関門となります。

私はこの春で心理職となって21年目を迎え、その間、新入社員の職場適応支援もかなり行ってきましたが、今年の新入社員は例年以上に「リアリティショック」に苦しむ方が増えるのではないかと心配しています。

リアリティショックとは

「リアリティショック」は1958年、組織心理学者のヒューズ(Hughes)が提唱したことに由来します。もう60年以上前から研究が続いていることから見ても、この問題がいかに難しいかがよくわかります。

2019年のパーソル総合研究所の調査によると、社会人1-3年目の76.6%が何らかのリアリティショックを感じていると、極めて高い値となりました。

コロナ禍の新入社員のリアリティショックはどうなっていくのでしょうか?

この春入社の方々のリアリティショックは過去最大?

就職活動では、これまで、職場を訪問する機会を得て、廊下ですれ違う方の様子、場の雰囲気、受付の方の応対や複数の面接官の立ち居振る舞いなど、学生側が企業を知る手掛かりが僅かながらありました。これらの職場の雰囲気を内定先の判断のひとつとしている学生も多く、入社後のリアリティショックを緩和する大切なプロセスとなっていました。

この春入社の方々については、内定判断に際してリアルな職場を少しでも体験できた方は以下のようにごく一部なのではないかと推察します。

①昨年3月ころまでの早期選考までに実際に会社に足を運び、対面の採用面接を経て内定

②一昨年のインターンシップで対面での職業体験を積んだ上で内定

昨年の就職解禁時には、会社説明会や採用面接など殆どが急遽オンラインとなり、一度も会社に足を運ぶことなく内定を決めた方がかなり多い印象があります。その後内定式もオンライン、会社に足を運ぶ機会は殆どなく、就職後の世界を垣間見る機会がないまま入社を迎える人も相当数となるでしょう。

こうしたことから、私は新入社員のリアリティショックはかつてなく大きな問題となるのではと懸念しています。

フィジカルにも心配

学生最後の1年間、急遽オンライン授業となって通学はもちろん、バイトや部活も大きく制約されました。外出機会が非常に少ない年次で、体力的な衰えを口にする方も少なくありません。

もちろん、自分で体力維持の努力をしている方もいるとは思いますが、社会全体が若者の外出自粛を要請する中、素直に従った面もあり、体力不足を彼らのせいにするのは忍びないと思います。

サラリーマンのストレスとして侮れないのは通勤のストレスです。長時間通勤、混雑など、小さなストレスながら日々体力気力をむしばむ要因になる場合があります。

社会人としての一段の朝型生活リズムと通勤時間をプラスした心身のスタミナへの備えは、従来から意外と新入社員がハードルを感じるところでした。

今年は「自分がこんなにも体力がないかとがっくりする」というフィジカル面のリアリティショックも懸念です。

リアリティショックからの回復のためにできること

リアリティショックからの回復のために新入社員自身が努めるのはもちろんですが、今年は上記の状況に鑑み、例年以上に周囲の理解と協力が必要です。

リアリティショックからの回復に際しては本人及び周囲の方にとって、以下のような方策が役立ちます。

①入社早々の時期において育成者や新しい同僚との関係性を充実させること

 ・・・新入社員がリモートワークとなる法人においては、新しい関係性の構築を早期にどう促進していくかが鍵となります。

②リアリティショックがあることは当然のことであることを理解する

・・・とりわけ、この春入社の方は、精神的のみならず、体力的にもハンディを背負っている可能性があることを本人も周囲も十分に理解しておくことが大切です。その上で本人が気持ちを抱え込み過ぎず、信頼できる人に話せるような環境づくりが必要です。

③小さなことでもうまく言ったことを認め、同時に改善すべきことを把握する

・・・書くことで整理が進む人は日々の記録をつけることが役立ちます。周囲の方は言葉に出して本人の成長を認め、課題に取り組んでいけるよう励ましていきましょう。

④信頼できる先輩からのサポートを得る

・・・新入社員の方から声をかけるハードルが高いため、短い時間で良いので、定期的にこまめに話せる場を持つことが有効です。

上記にプラスして、今年は新入社員のフィジカルな体力や体調面にも配慮を加えてあげるとなおよいでしょう。働くことは自ずと体力を備えることにつながりますので、焦らないでと声掛けをしてあげてください。

リアリティショックは早期離職につながる要因であり、どう乗り越えるかはその後のキャリア形成に大きな影響を及ぼします。

その存在が見つかってから60年を経てなお明快な解のない課題ですが、本人と周囲の方で手を携えて取り組み、乗り切っていきましょう。