休場、連敗が続いた稀勢の里、苦しむ姿に自分を重ねて「ひとつでいいから勝ってほしい」と応援していた方、多かったのではないでしょうか。今場所3連敗を受けての引退表明はとても残念なニュースです。

昨年11月に横綱審議委員会が異例の“激励”の決議をして迎えた今場所でしたね。文字通り土俵際、「もう後がない」と追い詰められている状態での“激励”は想像を絶する重圧だったろうと思います。

土俵際で踏ん張るサラリーマンと“激励”

サラリーマンに関しては、本人がぎりぎりの状態で踏ん張っている時の“激励”は、かえって本人を追い詰めてしまうことが多いように感じます。特に気を付けたいのが、それまで業績を残してきて、精神的にもタフと思われている人たちへの声掛けです。

彼らは、困難な状況を「何のこれしき」と自分の力で解決してきた自負があります。そのため、中堅・ベテランとなって到底一人で解決しきれない課題に遭遇した時でも、「サポートを求める自分はダメだ」、「そんな自分を人は見放すだろう」と恐れて、今の窮地を何とか自力で克服しようと懸命に踏ん張ってしまうのです。

また周囲の人も、あの人は大丈夫、できるだろうと思っていて、本人が土俵際だと思っていることに気づきにくいのです。

自分を責める強い気持ちが根底にある時は「人から責められる」ことを感知しやすくなります。“激励”や“奮起への期待”は、それを発している側からすると、本人を信じて成長を願う気持ちですが、本人は「自分はダメな人間と思われた」「追い込まれた」「責められた」と受け止めやすいのです。

声掛けの工夫

ではどんな声掛けなら本人は受け止めやすいのでしょう。ただ「頑張れ」、「できるはずだ」といわれても、本人は「これ以上どう頑張ればよいかわからない」、「自分には到底無理」と思っているので気持ちが伝わりにくいものです。

かわりに、まずは「今どんな状況かい?」と、本人がどのように自分の状況をとらえているかを尋ね、本人の困りごとがあれば、具体的に解決に向けて共に考えようという気持ちを伝えるとよいでしょう。

「大丈夫です」「平気です」と言われたときには、「そうか。困ったことがあったらいつでも相談に載るよ。遠慮しないで。」と添えるとよいでしょう。人に相談することへの抵抗が強く、即座に相談出来なくても、後で話してくれることがあります。

サポートを求めることの重要性

土俵際ぎりぎりの状態で踏ん張っている皆さん、うまく人に相談したり、サポートを求めることもとても大事なキャリアのスキルです。まず、人に自分の状況を言葉で説明するだけでも、自分の土俵を客観視できる機会となります。そしてサポートを得ることで、自分では土俵際と思っていた、その土俵が広がり、対処の術を検討しやすくなります。これは一つの習慣です。少しずつ取り入れてみてください。

稀勢の里、とてもまじめな方という印象ですので、引退後心配ですけれど、苦労の末重ねてきた業績をたたえ、温かく見守りたいと思います。