現代に通じる時間管理の始まりは18世紀後半に始まった産業革命にあります。もともと人は、陽が昇れば働きだし、沈めば眠るといった、自然の移ろいや状況に従って時間を過ごす生活をしてきました。産業革命で機械による大量生産が必要な時代に入ったものの、それまで自由気ままな生活をしてきた労働者たちは深酒して翌日休む、この1週間どんな仕事をしたか報告しない、など、当初はとてもルーズで組織は混乱していました。そこで3時間おきに鐘や笛を鳴らして労働時間を管理し、マニュアルを整え、生産性や効率性を上げるために時間に従って行動するように求められるようになったといいます。
働き方改革で直面する仕事以外の自分
日々追われるように働いて何年、何十年となると、自然の移ろいや状況に従って時間を過ごすことがむしろ難しいと感じられますが、働き方改革では、積極的にオフを設けることで、オンの時により高い生産性を上げていくことが狙いの一つとなっています。
残業制限、プレミアムフライデーと、強制的に会社から離れる時間が少しずつ増えていますが、皆さんはどう過ごしていきますか?仕事をはぎとられてしまうと、如何に自分が仕事に依存し、それがないと居場所や落ち着きどころを失うかを痛感する人、多いのではないでしょうか。特に猛烈サラリーマンであることが自分の一部となっている方々には。
枠が取り払われるというのは、実はその人の自我の脆さが露呈しやすい状況を生み出します。時にスキャンダルが報じられる野球選手、相撲力士のスポーツ外での麻薬依存、ギャンブル依存がその例です。ユニフォームやまわしを外すと崩れてしまうのでしょう。
サラリーマンでも会社ではまじめとの評判なのに、プライベートでは酒やパチンコへの依存、衝動買いや過食に耽っている人は少なくありません。
もちろん、それらが自分にとっての唯一の楽しみという方もいるので、ほどほどであればよいのですが、自由な時間は増えたが、仕事以外に自分を語るものがなく、不安や恐れ、虚しさを紛らわす手段として生活の一部となってしまっている状態は、心の健康としては好ましくありません。働き方改革は仕事外の時間を自分らしく有意義に過ごす工夫を少しずつ始める良いきっかけとなるでしょう。
日本とスペインの労働生産性ランキング争い
ところで、スペインでは、朝10時に出勤し、昼は3時間シェスタを取り、20時まで働くというのが一般的だそうですが、生産性向上のためにシェスタを無くす方向での検討が始まっているそうです。シェスタはもともと強い日差しを避けるという自然条件に応じた生活習慣ですから、シェスタの削減は、スペインの方たちにとっては産業革命当初、人々が感じたと同じような大きな働き方変革となるでしょう。
日本の場合は働き過ぎといわれるのに労働生産性は低く、スペインの場合はシェスタが一つの要因として労働生産性が低いようですが、OECD加盟国の時間当たり労働生産性(2015年・35加盟国)ランキングを見ると、日本は20位で先進7か国中最下位を継続中ですが、スペインは何と17位で日本より上位です!日本の労働生産性が低いという認識はありましたが、こう比べてみると驚きと失望の結果です・・・
互いに働き方では対極にある両国、働き方改革も日本は時間を緩める方向、スペインは時間を厳しくする方向と対照的ですから、この労働生産性ランキングの今後に注目です。