厚生労働省は過重な労働が原因で発症した脳疾患、心臓疾患、精神障害の状況について、2001年度以降の労災の請求件数や支給決定件数などを公表しています。
先日、2017年度のデータが公表されました。
精神障害の労災支給決定件数が過去最多に
脳・心臓疾患に関する事案の労災支給決定件数は253件で前年度比7件減少であるのに対して精神障害に関する事案の労災支給決定件数は506件で前年度比8件増加し、統計開始以降過去最多となりました。
また、うつ病など精神障害の支給のうち、未遂を含む自殺事案が98件で前年度比14件増と大きく増えたことが特徴でした。新聞でご覧になった方も多いと思います。
自殺者数全体は2017年は21,321人で2010年以降8年連続減少していますので、業務に起因する自殺関連が大幅に増加したという事実の重みがなお際立ちます。
裁量労働制対象者の労災支給も増加
件数が少ないため、あまり注目されませんでしたが、実は昨年度の公表分より、上記の内、裁量労働制対象者に対する労災補償状況4年分も併せて公表されるようになりました。
厚生労働省の調査の不備が発覚して“裁量労働の対象業務の拡大”は働き方改革関連法案からは削除となりましたが、秋から仕切り直して再検討されるとのことですので、要注目のデータだと思います。
昨年度公表分と合わせると以下のような推移となっています。
脳・心臓疾患(うち死亡) | 精神障害(うち未遂を含む自殺) | |
2011年度 | 1(0) | 2(0) |
2012年度 | 4(1) | 11(3) |
2013年度 | 5(2) | 10(0) |
2014年度 | 8(1) | 7(1) |
2015年度 | 3(3) | 8(2) |
2016年度 | 1(0) | 1(0) |
2017年度 | 4(2) | 10(5) |
このデータで目立つのは、精神障害の支給決定件数の増加で、とりわけ、未遂を含む自殺案件が半数あった点も見逃せません。
“みなし労働時間”の名のもとに、労働の実態がはっきり把握されず、誰にも相談できない、誰も気づかないという中で追い詰められてしまうリスクの高さが懸念されます。
2017年のデータには、「裁量労働制で法定条件をクリアしていないものも含めた」との注釈があります。私の推察ですが、某不動産会社で行われていたように、本来裁量労働制の対象ではない業務(たとえば営業)を裁量労働制として違法に適用していた事案が含まれているのでしょう。
裁量労働制が違法に適用されている事例があること自体、大きな問題です。
望ましい裁量労働制は、自らの能力発揮や生産性の向上、仕事と生活のバランスの改善など、働き方を改善するものですが、業務量が過大で、労働時間が長く、裁量の余地も実はあまりないという事案の報告が後を絶ちません。
厚生労働省の不備が見つかった調査は一般労働者と裁量労働制対象者の労働時間の比較を行ったものでしたが、仕切りなおして検討する以上、労働時間の比較だけではなく、生産性やワークライフバランス、心身の健康への影響など、裁量労働制が望ましさの点でどうなのか、今後の運用上の課題は何かのか、正しいデータに基づき!!多角的に検討していただきたいものです。