この度の豪雨、土砂災害、河川の氾濫などで犠牲になられました方々にお悔やみを申し上げますと共に甚大な被害にあわれた皆様に心よりお見舞い申し上げます。
“ファイト・オア・フライト” + “フリーズ”
命の危険に晒される時、その脅威と“闘うのか逃げるのか”(ファイト・オア・フライト )、私たちの心拍数や呼吸数、血圧は上昇して瞬時の反応に備えると考えられています。
20世紀前半に提唱された“闘うのか逃げるのか”という反応に加えて、“フリーズ”(動けない)という反応も災害時に広く認められると主張したのは、イギリスの心理学者であるジョン・リーチ氏です。
彼が2004年に発表した論文は示唆に富んだものですので、エッセンスをお伝えします。
リーチ氏は5つの船舶事故、6つの航空事故の目撃者への調査から、災害への反応が以下の3つの群に分かれるとしました。
①比較的冷静に行動する人々が10-15%
②唖然としてしまいフリーズ(動けない)する人々が75%
③泣き叫んだり混乱して取り乱す人々が10-15%
避難行動という観点ではどのようにして②、③の群を迅速な避難行動に導くかが大きな課題となります。
フリーズ(動けない)する理由
リーチ氏は、②のフリーズ(動けない)する理由について以下のように述べています。
わたしたちの脳の処理能力には限界があり、特にワーキングメモリー(注:情報の保持と処理を行う)には以下の限界がある。
①ある時点で保有できる情報に限りがある
②処理の速度に限りがある
③認識する仕事が複雑になればなるほど神経回路がより広がる必要があり、処理に時間がかかる
④危険な状況ではより情報処理が遅くなる
これらの理由が災害時に反応が遅れたり、反応が無くなる理由であると延べました。
人が「認識」してから「行動」するまでの複雑なプロセス
リーチ氏は、加えて、人が「認識」してから「行動」するまでには
「認識する」 「理解する」 「決断する」 「実行に移す」 「動く」
という複雑なプロセスがあり、
それぞれの要素が完結するのに時間を要する上、災害時には予測不能でしかも審議している時間がないとも指摘しています。
極限状況での避難にどう備えるのか
脳の処理能力の限界を超える状況の中で、避難という行動に出るために、私たちはどう備えることができるのでしょうか。
リーチ氏は、練習や訓練や以前の災害の経験を通じて、通常、8-10秒かかる反応時間を1-2秒に短縮することが可能だと述べています。
正しい行動に導く反応そのものをひと揃い学習することによって、いざという時になって熟慮したり、正しい行動に結びつける図式を作ったりする操作が不要となり、以前に学習した反応を選びとるだけとなるということです。
この研究は、船舶や飛行機という、閉ざされた、逃げ場のない場所に関するものですので、大規模な自然災害の避難行動にも当てはまるかどうかはわかりません。
しかし、この度の大規模災害は、豪雨、土砂災害、河川の氾濫など、複数の自然災害がほぼ同時に重なりました。人々にとって認識する状況が複雑となり、より一層判断が難しくなってフリーズ(動けない)した方々も多かったのではないかと推察します。
一日も早い復旧と心身のご回復をお祈り申し上げます。