原酒不足のため、12年、17年といった年代もの国産ウイスキーが相次いで生産中止と聞きました。
ウイスキーの原酒のこころ?
樽に詰められ、長年じっくりと熟成されてきた原酒、予想を上回る人々のニーズに応じて自らを提供し続け、やがて尽きてしまう・・・長年に亘って組織や家族のためにと頑張り続けてきた人が燃え尽きてしまう、こころのプロセスとも重なる話です。
「うつ」は酒に香りをつける香草
「鬱」という漢字の起源によると、「うつ」は南方の香草だそうです。「鬱」の原字は「臼(両手)+缶(かめ)+(香草でにおいをつけた酒)」で、香草を煮てお酒にあえ、香りをこもらせるという意味があります。また冠に木が並ぶのは、木が“鬱”蒼(うっそう)と茂る様子だそうです。
漢字の成り立ちから見ると「鬱」は、やがて香り高いお酒ができあがるための熟成のプロセスとも考えられますね。
こころの熟成のプロセス
忙しい日々の中でずっと走り続けてきていると、気づかぬ間にこころのエネルギーが枯れていってしまうことがあります。
うつ状態にあると、気分が沈みがちで部屋にこもることが増え、動くのが億劫、やりたいことが見当たらない、人と会いたくなくなります。行動は消極的となり、内側に引きこもったように感じるかもしれません。鬱蒼(うっそう)と何かが覆いかぶさり、八方ふさがりとなったような感覚にもなります。
けれども、これらは、うつの症状による影響が少なくありません。ゆっくりと静養しながら専門医を受診して薬による症状改善を図ったり、カウンセラーなどの専門家や信頼できる人のサポートを得たり、その人にあった方法を見つけることで、少しずつ回復に向かいます。
この時期、近隣のウォーキングにでかけて身近な自然に触れたり、音楽や絵を楽しんだり、親しい人との交流を再開したり、自分のこころの求めに応じて過ごしてみることはとても大事です。
走り続けている中での見え方と、立ち止まってじっくり過ごす中での見え方とは大きく異なっていることでしょう。ゆったりした時間の中で、自分を改めて振り返ったり、冷静に自分の周囲の環境を見渡したりする機会となります。
そうして、自分のこれまでの持ち味を活かしながら、視野を広め、からだの声と上手に付き合う柔軟さを備え、その人らしい味わいと深みを増してゆきます。
新たなステップは、熟成された自分の走りです。誰と比べるものでもなく、自分が納得できる走りが大事ではないかと考えています。
常用漢字としての「鬱」
漢字の鬱が常用漢字となったのは2010年と、最近のことです。うつへの関心の高まりと無縁ではないのでしょう。29画もあり、常用漢字の中で最も画数の多い漢字に属しています。この状態を表すのに、精一杯簡略してこの画数ですから、如何に奥が深いかを物語っているようです。