いよいよ師走となり、職場の繁忙感も増していることでしょう。いくつものタスクを抱えていて忙しい時、つい「例のあれ、どうなった?」と言葉を短縮してやり取りしていませんか?「あれ」と伝えるだけで自分の望んだ会話が成立すれば以心伝心、わざわざ文字や言葉にしなくても互いに理解していると思えるような心地よさにつながるでしょう。

でも「あれ」が相手にピンとこず、互いに言ったつもり、わかったつもり、になっていて後で困ったというようなこと、ありませんか?

コミュニケーションの「コンテクスト」

コンテクスト(context)は、一般的には「文脈」と訳されます。文化人類学者のホールは、共有する情報(ex知識、経験、価値観、嗜好性)によってコミュニケーションの取り方が異なり、言葉による伝達が少ないコミュニケーションを「ハイコンテクスト・コミュニケーション」、共有する情報が少なく、言語による伝達が多いコミュニケーションを「ローコンテクスト・コミュニケーション」と呼びました。それぞれの特徴は以下のとおりです。

ハイコンテクスト・コミュニケーション ローコンテクスト・コミュニケーション
共有する情報が多く、言葉による伝達が少ない 共有する情報が少なく、言葉による伝達が多い
曖昧な表現を好む 直接的でわかりやすい表現を好む
多く話さない 多く話す
聞き手の推察力を期待する 話し手の力量が問われる

以心伝心は「ハイコンテクスト・コミュニケーション」に該当します。上司と部下が共有する時間や経験が豊かな場合であれば曖昧な表現である「あれ」でやり取りが可能となります。

一方、上司と部下の接点があまりない場合には、「あれ」といわれても、言われた方は何のことやら困るでしょう。直接的でわかりやすい表現が好まれます。伝える方は以心伝心を求めても、ローコンテクストの職場においてはコミュニケーションがうまくいかないのです。

このように、コミュニケーションの際には、相手と共有している情報量がどれだけ多いのかを意識し、それに応じた情報を与えることが大事です。共有されている情報が既に多いのに(ハイコンテクスト)、なお情報を与えすぎるのは相手の印象を下げることがあります。一方、共有されている情報が少ない場合には(ローコンテクスト)、情報をきちんと与えないと、相手に伝わりません。

日本の文化はハイコンテクストの度合いが最も高い国と言われていますが、皆さんの職場はどうでしょう?世代間のギャップやキャリア採用の方の多様性など、職場のコンテクストも様々だと思います。職場のコンテクストを理解し、コミュニケーションの取り方を一工夫なさってみてください。