部下や同僚との仕事のやり取りで、「大丈夫、間に合いますというので待っていたが、直前になって間に合わないと言われてストレスだった」というお話しをよく伺います。

期日を伴う仕事を行う時、本人は当然計画を立てているはずなのですが、実際には計画通りできないことが職場ではしばしばです。  これはなぜでしょうか?

その原因の一つが「計画錯誤」という認知のバイアスです。

計画錯誤(Planning fallacy)とは

「計画錯誤」の概念は1979年にカーネマン氏とトベルスキー氏が提唱しました。

「計画錯誤」とは、“計画を立てる時に作業にかかる時間を短く見積もってしまう楽観的傾向”のことです。fallacyとは誤った考えという意味で、誤った考えなのに、思い込んでしまって気づかないという認知のバイアスです。

カーネマン氏は心理学者、行動経済学者で、経済学と認知科学を統合する領域を開き、2002年にノーベル経済学賞を受賞しました。とりわけ不確実性な状況で人がどのように予測を立てて行動するかを研究し、様々な認知のバイアスを提唱しました。

職場で何度も計画錯誤を繰り返す人、いませんか?

過去に計画通りに進まずに失敗した経験があったとしても、自分では気づかない認知のバイアスがあるために、新しい計画を立てる際にまた楽観的な予測をし、失敗を繰り返してしまうのです。失敗の経験が生かされないことが問題となります。

ここまで読んできて、「人のことは思い浮かぶけれど自分は大丈夫」と思うとすると、それも懸念です。自分が気づかぬバイアスが潜んでいる可能性があります。

誰しもこの認知バイアスをもっているのです。

カーネマン氏自身の計画錯誤例~教科書執筆期間

カーネマン氏は自身の経験を話しています。20代でイスラエルにいた時に、執筆チームと共に教科書執筆の機会を得たそうです。順調で1年で全体の2章分を書き上げることができたため、執筆チーム全員に、完成まであと何年かかるか予測を聞いてみました。多くが1年半から2年半という回答でしたが、実際の完成は何と、8年後だったそうです。それまでの目の前の進捗がスムーズであったことで楽観的なバイアスがかかり、「計画錯誤」に陥ったということでした。

ノーベル経済学賞受賞の方ですら計画錯誤のバイアスに陥ることがあるからといって安心してはいられません。

誰でもこのバイアスがあるという前提で、とりわけ互いに仕事を順調に行うためにはどんな対策がとれるでしょうか。

計画錯誤を減らすには

  1. 自分が計画錯誤に陥りやすいことを認識する
  2. 作業全体のタスクを小さく分けて進捗管理を行う
  3. 過去の計画や求められる成果の基準などを参考として客観的に予測する
  4. バッファを設ける

まず、1.について、気づかないと認知のバイアスは修正のチャンスがありません。自分が計画錯誤に陥りやすく、過去に何回か失敗していることについて認識を持ちましょう。2.について、とりわけ長期の案件ではカーネマン氏の例のように大きな計画錯誤を招きやすいものです。作業全体を小さく分け、進捗管理をこまめにしていきましょう。

3.の客観的予測は特に重要な対策です。先のカーネマン氏の例に見るように、目の前の「内部情報」に基づいた結果予測、とりわけ順調に進んでいると錯覚している時には楽観的なバイアスが大きくかかるリスクがあります。過去の類似のケース(外部情報)を調べたり、求められる成果の基準と照らして進捗を管理するなど、客観的に予測を立てることがとても重要です。

4.のバッファは、人の行動ですから予期せぬ出来事が入ってきたり、自分が体調不良となったりすることも考えておく必要があります。それらを想定しながら前倒しに進めていくことになります。

直前になって、間に合わないとわかることは、自分にとっても周りの人にとっても大きなストレスです。特にコロナ禍でコミュニケーション全体が減ってしまっていますので、こまめに連絡を取り合うことが大切です。

しっかり自己管理していきましょう。