「変化が苦手な部下がおり、自分のやり方にこだわって変えようとしないので職場で困っている。どう対応したらよいか」
以前から部下に関するご相談の中で多かったテーマですが、コロナ禍でなお目立ってきた印象があります。今回は職場における変化を長年みてきて思うことや、ご本人への対応など述べてみます。
職場における変化
相談内容で話題となる職場における変化には、以下のものがあります。
- 異動・昇進に伴う自身の業務内容や役割の変化
- 自身や同僚の異動に伴う人間関係の変化
- 事務の合理化・効率化に伴う業務の量や質、フローの変化
- 残業時間の制限や働く場所など働き方の変化
- 人生におけるライフイベント(結婚、出産、引越等)に伴う変化
働き方改革の号令が政府から聞こえ始めた数年前からは、特に3,4(残業制限)が相談内容の中で大きな変化としてしばしば登場するようになりました。
この頃から、変化についていけないというご本人からのご相談や、冒頭のように、どう対応すればいいかという上司からのご相談が増えて来た印象があります。
変化が苦手と感じるわけ
「変化が苦手」と感じる方の中には、自分を振り返ると、「進学や引っ越しなど、環境変化がある度に苦労をしてきた」という人もいれば、「社会人としてもこれまで何とかやってきたのにここにきてうまくいかない」という人もいます。
新しい状況にどう慣れていくかは人それぞれで、「まずはやってみよう」と楽観的な見通しをもって行動していける人は比較的早く慣れていきますが、「自分には無理、うまくいかない」と予期したり、「恥をかきたくない」と恐れたりすると足が踏み出せず、しばらく固まってしまいます。
とりわけ、物事に対する自分の手順や、その手順を整えるための環境にこだわりの強い人は、「自分が上手く出来る環境を何とか作ってきたのに、また1から作り直さないといけない」と思うため、変化のハードルが高くなりがちです。
裏を返すと、「自分に対する自信が持てず、精一杯の適応がこのやり方なので、違ったやり方をする羽目になれば崩れた自分が露呈してしまう」ことをとても恐れているのです。
変化が苦手な人への対応
「変化しようとしない、自分のやり方にこだわっている、そのことで職場に問題が生じている」と上司が思っている時にやってしまいがちなのが、「その態度が間違っている」、「勝手な態度で自己中心的だ」と非難することです。
中には確かに態度が自己中心的で問題のある方がおられるかもしれません。
しかし、これまで私が述べて来たような方の場合は、非難されると「益々自分が窮地に追い込まれた」と不安と恐怖を募らせ、前のやり方にさらに固執するようになります。こだわり行動は不安とリンクしているのです。場合によれば、自分の人格を否定された、能力を否定されたと感じる人もいるでしょう。
対応としてお願いしたいのは、なぜ変えていくことに抵抗があるのか、ご本人の考えや気持ちをじっくり聴いていただくことです。全部を恐れていることもあれば、実は不安なのは一部であってそのために全然動けないと思っている場合もあります。業務のどの部分にどういう不安が、どの程度あるのかを丁寧に聴きとることができれば、該当する業務ごとの対策について話し合いをしやすくなります。一度に大きく変えることがどうしても難しい場合は、業務の一部の変更から始め、徐々に不安を軽減していくやり方もいいでしょう。
人によって新しいことに馴染むのに時間がかかり、変化を嫌う方は一般的に適応までに多くの時間を要しますが、安心できる環境が提示されれば、また自分のやり方で、自分が一番良いパフォーマンスを出せる新しいやり方を見出していくものです。
ポイントとなるのは、不安や恐れ、自信のなさが変化を嫌う背景にあるので、本人に安心感とサポートを与え、仕事がうまく行かないことがあっても必ずサポートが得られると思ってもらうこと、そしてそれはお互い様で、恥ではないと思っていただくことです。
新しいことにチャレンジし、達成できれば組織への貢献やキャリアアップにつながる、という長期の見通しを伝えることもご本人に大きな励みとなり、自信を与えます。
コロナ禍の環境変化
コロナ禍以前は、変化の内容や程度は様々であれ、概ね年間の変化のタイミングが予測できるもの(例:異動・昇進)や、準備期間がそれなりに用意されているもの(例:働き方改革や新システム・新コンプライアンスの導入)が多かったと思います。
コロナ禍に伴い、これらの変化のスピードは加速し、突然の在宅勤務の開始や突然の出勤要請など、先が読めない事態の連続となりました。このところの感染拡大状況を受けて、同僚や家族の急な発熱と隔離などにより、明日の自分の仕事や生活がどうなるか読めないという不安や緊張は皆が持っています。
「今日までは何とか変化に適応してきた自分も、明日はどうなるかわからない」
コロナ禍は、自分が経験することを通じて、変化が苦手な人の理解に一歩近づくチャンスでもあります。
明日を恐れず、今日行動できること、ここまで頑張ってきた自分を認め、楽しんでいきましょう。