長年デフレに慣れ親しみ、実質賃金もこの20年ほとんど変わらないと言われる中に過ごしていると、「インフレがストレス」と言われてもピンとこないものです。
しかし、日本でも急激な円安、原材料価格の高騰、輸送コストの上昇、国際情勢不安などから値上げの報道が増えてきました。コロナ禍の収束を見ないまま次々と新たな問題が起こり、私たちの日常生活がこの先どうなっていくのか、不安になるこの頃です。
アメリカ心理学会(the American Psychological Association)はストレス・イン・アメリカ2022を発表しました。WHOがCOVID-19の世界的流行を宣言して以降この2年間が個人のストレスにどのように影響したか、2月上旬と3月初の2回行った調査結果です。
直近の社会経済情勢を反映して、インフレや供給の混乱、国際情勢など、ストレス因の上位が従来と異なる結果であったため、アメリカでは様々な記事で取り上げられていましたので、ご紹介します。
ストレス・イン・アメリカ2022調査結果・ストレス因について
アメリカではストレス因がこれまでの傾向と異なり、以下が上位を占めました。
1位 インフレによる物価の上昇(ガソリン代、光熱費、食費など)
2位 サプライチェーンの問題(供給の滞り、品薄など)
3位 世界的な不透明感
4位 ロシアからの報復の恐れ(サイバー攻撃、核の脅威など)
5位 ウクライナへのロシア侵攻
表
アメリカでは3月の消費者物価指数(CPI)が前年同月比8.5%上昇し、1981年12月以来、40年ぶりの高水準となりました。物価上昇ほどには賃金は上がりません。車社会ですから、値上がりしてもガソリンは必須、生活必需品も削ることには限界があり、家計の切り盛りが大きなストレスとなっている様子が伺われます。
ストレス因の第2位となったサプライチェーンの問題は、コロナ禍の影響による労働力不足やウクライナ情勢などが背景にあると言われています。日本においてもマスクの供給不足に慌てた記憶は新しいところでしょう。アメリカではより深刻です。私が個人的に最も心配なのは、アメリカにおけるフォーミュラという赤ちゃん用(粉)ミルクの不足です。リコールで回収となっていることも一因のようですが、品薄のため、販売個数制限が始まりました。1日何回も授乳するので、都度赤ちゃんのミルク不足を心配することはママたちにとって大きなストレスだろうと思います。
そしてロシアとの関係や緊迫する戦闘状況もアメリカでは非常に身近な脅威となっています。
その他興味深い調査結果
この調査では、COVID-19によって、63%の人が、”人生が永遠に変わったと感じている”ことが明らかとなりました。また、87%の人が、“この2年間、次から次へと危機に襲われているように感じ”、73%の人が、“現在世界が直面している危機の数々の前に圧倒されると感じている”そうです。
いずれもメンタルヘルスへの影響が懸念される結果です。
こんな大きなストレスに対処する方策はある?
ストレス因の中でも、今回の調査で出てきたような漠然としたストレス因はとても厄介です。概念的でわかりにくい、具体的に把握しにくいため、漠然とした不安にとりつかれやすくなります。“何となく不安”は、”あれも不安、これも不安”と、不安の連鎖を招きやすいのです。
こうした厄介なストレス因への対処として勧められているのは、①家族や友人など、親しい人に話してサポートを得ること、②問題を具体的に検討し、できそうなところから始めてみること、です。
例えばインフレのストレスであれば、まず、インフレが自分の生活に影響することへの不安を家族や親しい人と共有することがとても大事です。話してみると、親しい人でも人によって受け止め方が違うこと、色々な考え方があることを知ることができます。インフレが家計にどのように影響し、どのように予算を立て直す必要があるのか、何の支出を削るのか、人の助けを得ながら具体的に検討できるようになれば、漠然とした不安から抜け出し、問題解決の糸口がみつかります。
サプライチェーンの問題のストレスについても同様です。欲しいものを入手する方法や値段について誰かと共に検討し、方策を知っておくだけでも大いに安心するものです。
政情不安、戦争の不安は生命に関わる根源的な脅威です。将来を悲観ばかりしてしまうと不安やストレスを増幅させるので、現状を的確に把握する上で必要な情報を集めること、そのために不安や恐怖をあおる情報からは距離を取ることも大切です。
はじめの一歩
日本とアメリカでは抱えている問題が異なりますが、次から次へ押し寄せる危機に圧倒される人が非常に多いことは共通ではないかと推察します。
”自分では何もできない”と思ってしまうと圧倒される気持ちに押しつぶされます。何か自分が出来ること、取り組めそうなことを具体的に検討し、選択して実行してみましょう。まずは小さなことでよいです。自分で自分のことを切り盛りできるという、「コントロール感」がストレスをマネジメントしていく鍵となります。