職場における実績や周囲の評価は高いのに「自分は大したことが無い」「良い成果は周りの人のお蔭」と自己評価が低い方がいます。
日本の女性管理職比率が低い理由は様々ありますが、こうした自己評価の低さが一因で、管理職となることを拒む方が少なくないのではと私は考えています。
この点について最も印象深いのは、異動発表の直後に相談に見えたAさんです。「課長に昇進したのだが、自分はそのような器ではないし、実績もない。とても課長が勤まるとは思えない。課長として働くことを考えると気分が沈む」というご相談でした。それまでのキャリアを伺うと実績と言い、人間関係力と言い申し分なく、昇進はもっともと私は感じたのですが、Aさん自身は自己評価がとても低いのでした。
今回は、自分の実績を過小評価し、自己卑下の強い「インポスター症候群」という心理傾向についてお話しします。
インポスター症候群とは
「インポスター」は詐欺師のことです。心理学者のクランスとアインスは150人の成功した女性の分析を通じて「自分が成功したことを信じがたく、周囲をだましているような気がする。」「自分の本当の能力やばれてしまうことが不安」という心理傾向をみつけ、1978年に「インポスター症候群」と名付けました。クランス自身も大学院時代、輝かしい成績を収めても、試験でしくじることを恐れる精神状態に陥っていった経験があったそうです。
今ではインポスター症候群は性別、成功体験の有無に関わらず生じる可能性があると分かって来ました。著名人でインポスター症候群に苦しんだ方としてはフェイスブックで初の女性役員となったシェリル・サンドバーグ氏や、ハリーポッターのハーマイオニー役のエマ・ワトソン氏が挙げられています。
インポスター症候群にある人はとても自己評価が低く、必要以上に謙遜したり、自己卑下をしやすい、失敗を恐れてチャレンジしなくなるなどの特徴があります。
インポスター症候群の要因
家族に優秀な人がおり、知的に高い水準を求められる環境がインポスター症候群の要因となりやすいほか、個性より同調、女性は控えめにという教育も要因となりやすいと考えられています。自分の能力に対する評価が低いため、失敗に伴う他者からの否定的評価にとても敏感となります。他者から無能と言われることを恐れて行動が委縮してしまうこともあります。
インポスター症候群から抜け出すには
インポスター症候群ではないかと自分で思う方は、是非自分で自分をほめる習慣や、人がほめてくれた時には素直に受け入れる習慣を身につけましょう。
「人からほめられるのが気持ち悪い。信じられない。批判されている方が楽」とおっしゃる方は少なくありません。
しかし自己評価を向上させるには
①自分で自分をほめる
②人がほめてくれる時には素直に喜び、受け入れる
ことがとても重要です。
コロナ禍で、人との接触の機会が減りました。人がほめてくれることでエネルギーを補ってこられた方は、ほめられる機会が減る分、自らエネルギーを補給する必要があります。ちょっとした小さな達成でも、きちんと自分で自分をほめましょう。
インポスター症候群の人への関わり方
管理職登用にしり込みしたAさんの例にもどります。とてもきめ細やかな上司の下で成長してきた人ですが、上司の側には「本人も当然に管理職になると思っているだろうし、それを期待しているのだろう」との誤解があったこともわかりました。
多くの法人において課長より上の役職は今なお男性社会で、つい自分と同じく、「働くからには昇進は目指すものだ」という思い込みが働きやすいものです。それが部下の想いと合致していればよいのですが、インポスター症候群の傾向にある部下も中にはおり、丁寧なコミュニケーションが必要となります。
周囲にインポスター症候群ではないかと思う同僚がいる場合には、日頃より、本人の実績の評価を言葉に出してこまめに行い、本人が自分をしっかり評価できる手助けをしてあげましょう。
インポスター症候群になりやすい人は、完璧主義で自分への基準が高すぎる傾向もあります。「管理職登用の後も上司のサポートはこれまで同様得られるし、失敗を恐れずまずは一歩ステップアップしてみよう」とそっと後押しあげましょう。