安倍首相が持病の悪化を理由に辞任なさいました。6月頃より体調が悪化なさったとのことですから、この3か月ほど、辛い体調の中で政権トップの責務や重圧と向き合っておられたことになります。
私はこれまで「体調不良でも自分さえ頑張れれば乗り越えられるはず」と休むことへの罪悪感が強く、自分の健康を後回しにするうちに重篤な状態に至ってしまう方を多く拝見してきました。
首相という要職のために3か月もの間我慢してこられたことは、仕方がないとはいえ長いと感じますが、自身の体調が職務に与える影響に鑑みてこれ以上は無理と判断し、自ら休業を選択くださったことに、私は大いに安堵しています。
今回はストレスと生産性のイメージ図を元に、休業する勇気についてお話します。
ストレスと生産性
右の図はイメージ図です。ストレスについて生理学者のセリエは「ストレスは人生のスパイスだ」といいました。生活の中に様々な活動があり、適度なストレスがあってこそ心身が活性化し、充実感を味わうことができるものです。ストレスは成長のばねでもあるのです。
この図の低ストレスレベルをご覧ください。あまりにストレスがないとやりがいが乏しく、生産性はむしろ下がります。自分にとって張り合いのあるストレスゾーンは生産性も安定し、高いパフォーマンスを上げることができます。しかし、満杯のコップが1滴の水であふれ出すように、自分にとってのストレスのリミットを見逃さないことがとても重要です。これが警告期と言われるものです。
警告期には、眠れない、食欲がない、だるい、やる気が起きない、集中できない等様々なストレス症状が起きています。
この警告期を見逃したり、無理を重ねると体の抵抗力が失われ、「疲はい期」に至ります。
「疲はい期」
それまでコップの水が満タンになるほど目一杯頑張ってきた人の目には、自分が仕事ができなくなったようにみえ、それを自分の能力のせいだと責め始める時期です。
優秀で評価も備わった方であっても、この時期は集中力や判断力の低下に伴うミスが発生したり、 何度も確認したりして効率が上がらないものです。それらを自分の能力の低さと紐づけて確信をし始めてしまうのです。あまりにネガティブな自己イメージはけキャリア形成を阻害します。
能力のせいではなく、体調不良による様々な症状が仕事に影響していて生産性を下げている、そのことに早く気づき、健康優先に目を向けていくことが早く回復する鍵となります。
休業する勇気
病気で休みを取ることへの抵抗、主治医から休業を要する旨の診断書をもらったことのショックを語る方は多くおられます。
就業規則を読んだことがなく、休めば給料がもらえなくなると思って経済不安に追い詰められている方もおられます。
ご自身の就業規則によりますが、就業規則には欠勤、休職などの定めがあり、所得補償がある場合が多いです。職員が安心して休めるよう仕組みづくりをしていることは優秀な職員のつなぎ止めたい企業にとっても大事なことなのです。
休業の判断は、ご本人にとっても大きなことで、それまで無理をしていることもあって、休みに入って早々はむしろ体調が悪化するように見えることが多いのですが、これまでの疲れをどっと出すところから回復が始まります。
短く休んで早く戻ろうとせず、ゆっくり、十分な静養を心がけることが大事です。
人生100年時代のキャリア
新型コロナウィルスは疾患の発症が誰のせいでもないこと、体調に無理せず休みをとることなど、健康の問題が誰にでも起きることを学習する良い機会ともなっています。
人生100年時代、私たちは様々な健康状態と共に働いていきます。周りのサポートをうまく使いながら自分の健康回復に安心して専念する時間はとても重要です。
安倍首相のご回復を心よりお祈り申し上げます。