仕事を進めている時、同じ「ありがとう」でも、明るく大きな声で言われるのと、低くぼそりと言われるのとでは圧倒的に前者の方が嬉しいものです。
また、「何やってるの?」と言われる時、穏やかな口調で語尾を上げるイントネーションで言ってもらえば質問とわかりますが、強い口調で語尾を下げられたら叱られたと感じるでしょう。
今回はコミュニケーションにおける音声からの情報に注目してお話します。
パラ言語とは
先ほどの例のように、同じ言葉であっても、声の速さ、トーン、音量、抑揚が変わるとコミュニケーションの意味や感情は随分変わります。声の音声の特徴のことを言語学ではパラ言語(paralanguage)といいます。パラ言語をどう理解するかは、相手の意図や心情理解においてとても重要です。
ウェブ会議の導入が一気に広まりましたが、対面の時に比べて、相手の心情を読み取りにくいと感じませんか?特に相手の顔の表情やちょっとした仕草など、視覚情報を大きな手掛かりにしてきた方は、ウェブ上の画像では制約が大きいと感じていることでしょう。
ではこの際、音声の特徴に目を向けてみませんか?
日本人はパラ言語情報の認識が高い?
パラ言語に関する研究では、日本人は、パラ言語情報の認識が高く、顔の表情や身振り手振りの動作といった視覚情報を通じた感情判断よりも、音声による聴覚情報に基づく感情判断をしやすいとの研究結果が多くあります(例えば*1~3)。その一部をご紹介します。
心理学者の田中章浩先生は相手の感情を読み取るやり方について日本人とオランダ人の比較を行ないました(*2)。実験の結果、日本人は声の調子に敏感で、顔の感情を判断する際に声の情報の影響を大きく受け、一方声の感情を判断する際には顔の情報の影響を殆ど受けませんでした。
つまり、日本人は相手の感情を判断する際に、声の調子に気を配る傾向が強いという指摘です。
日本人が声の調子に気を配る傾向が強い理由
この理由について、田中先生は以下の点を可能性として指摘しました。
①日本人は人との関係を維持するために顔に感情をあまり出さないようにしている。このため、人の顔の表情もあまり信頼せず、声など他の情報に依存する傾向がある。
②日本人のコミュニケーションの様式として、何を言うかより、どのように言うかを重視するため、声の高さや大きさ、声質などの声の特徴を重視する。
③「雨」と「飴」のように、日本語には声の高低の変化によって区別される単語が他の言語より多い。このため、日本語母語者は声の高さの変化の識別能力が高く、それが情動の解読能力につながっている
なるほどと思いませんか?
さあ、これから声のコントロールを技にしよう!
さて、皆さんはウェブ会議が始まる前に、映像のチェックだけでなく、音声チェックもしていますか?髪型や表情、顔の映り具合は子細に調整するのに、声の確認はおろそかになっていないでしょうか?
緊張すると呼吸が浅くなり、早口となったり、声が上ずったり、滑舌が悪くなったりします。深呼吸やストレッチで緊張をほぐし、良い姿勢で声を整えましょう。
あなたが相手のパラ言語をよく観察しているように、相手も注意深くあなたのパラ言語を観察しています。自分の発言やプレゼンの際の声のコントロールに意識を高めればより効果的なコミュニケーションにつながるでしょう。
<参考文献>
*1 視覚と聴覚による音声知覚 ―言語/文化による差とその発達 積山薫 Cognitive Studies, 18(3), 387-401. (Sep. 2011)
*2 顔と声による情動の多感覚コミュニケーション 田中章浩
Cognitive Studies, 18(3), 416-427. (Sep. 2011)
*3 表情・音声による複雑な感情メッセージの理解 野村 光江・布井 雅人・ 吉川 左紀子
Cognitive Studies, 18(3), 441-452. (Sep. 2011)