関東圏の緊急事態宣言解除の兆しが見えてきました。
在宅勤務のバーチャルな人間関係から、久々にリアルの人間関係に戻る方も多いでしょうし、新入社員の皆様の中には、入社後一度も職場で働いていないという方が大勢おられることでしょう。
外出制限が解けてほっとする反面、通勤ラッシュは嫌だし、戻る職場については人間関係はもちろん、レイアウトも不安だなあと、複雑な思いのこの頃と思います。
ヤマアラシのジレンマ
「冷たい冬のある日、2匹のヤマアラシが、凍えるのを防ぐためにぴったりくっつきあいました。けれども、間もなく互いの棘(とげ)が痛くなり、離れます。すると今度は寒さに耐えられなくなります。また寄り添いますが、痛いので離れることを繰り返し、ついに、お互いに傷つけずにすみ、しかもほどほどに暖めあうことのできる距離を見つけました。」
これはドイツの哲学者ショーペンハウアーの寓話です。これを人間関係のたとえとして初めて引用したのは精神分析の創始者であるフロイトです。
“互いに親密になりたいのに、相手との距離が近づくほどエゴがぶつかり合って傷つき、距離を取れば疎外感を味わう”という葛藤を、その後精神分析医のべラックが「ヤマアラシのジレンマ」と名付けました。
感染リスクという新たな棘(とげ)とジレンマ
コロナ禍は私たちの日常を嵐の中に引きずり込んでいます。危機的な状況にあるからこそ、私たちは人の温もりを感じたいし、絆や支えを求めたいものです。しかし、未知のコロナウィルスは、感染リスクという見えない棘を私たち一人一人に授けました。
心理的なジレンマとして語られるヤマアラシのジレンマですが、疎外感を感じることなく、でも物理的な距離は大きくとるという難しい課題をつきつけました。
安心できる距離感の再形成と気遣い
久々に職場に戻る方は、まず、上司や同僚、お客様との物理的に適切な距離感を模索し、併せて心理的な適切な距離感を模索していくことになるでしょう。
安心できる距離感は一人一人違うものですし、また状況が始終変わりますので、落ち着きどころを見出すまでには時間がかかることでしょう。このことを上の立場にある方はよく認識しておくことが大事です。
信頼関係を(再)構築する第一歩として、まずは久々に職場に集うに際して、どのような座席配置や距離で働くことになるのか、感染予防として会社で取組んでいることなどを事前に伝え、なおかつその人にとって安心、安全な環境となっているか、出勤の折に個別の話し合いの場が持てることが大切だと思います。
物理的制約から殆ど調整の余地はないにせよ、その人にとっての距離感を尊重して耳を傾けることは、相手の安心感を高めます。安心感が加わると心の距離感は縮まり、狭い空間でも緊張感は緩和されるものです。
前のような距離感はもう通用しないことが明らかになりました。新しい距離感を皆で模索していくに際して、言うまでもなく、こまめなコミュニケーションがとても有効です。
実際のヤマアラシは、棘のない頭部を寄せ合って暖を取るのだそうです。物理的には頭を寄せ合えなくなりましたが、頭脳と心をフルに動かして職場環境を安全安心なものとできるよう、ジレンマを解決していきたいものです。