3月の異動対象となられた方々は、後任に引継ぎをしつつ、前任から引継ぎを受けるという非常に慌ただしい期間を過ごされ、異動先での新たな一歩を踏み出したころと思います。

前任後任揃ってお客様へのご挨拶に回ったり、デスクに並んで業務を引継ぐ姿を見ると、ああ、これがジョブローテーション(異動)を通じて個人のキャリアを形成する日本企業に脈々と伝わる伝統なのだろう、としみじみと思います。

引継ぎに伴う情緒

キャリアについてのご相談は、異動に関するものも多く、時に引継ぎが話題となります。

引継ぎを受ける側からは、「ベテランのポジションを自分が引き継ぐこととなった。重責でプレッシャー」、「前任からの引継ぎなくポジションを任され不安」など、引継ぎをした側からは、「丁寧な引継ぎ資料を作成して引き継いでいるが後任のモチベーションが低くて失望」、「この仕事にやりがいを感じていたので、引継ぐこと自体が残念」などです。

キャリア上の節目として

引継ぎは業務のスムーズな移管を最も重要な目的としますが、既存の役割の喪失と新たな役割の獲得というキャリア上の節目にあり、このように大きく気持ちが揺さぶられるプロセスでもあります。

究極的にはマニュアルさえあれば、あるいは仕事が定型化・標準化されているなら引継ぎは不要という考えもあるのでしょうが、同じ心理的課題を抱える前任と後任が引継ぎ期間を通じて共に支えあえれば気持ちの揺らぎが収まり、互いの円滑なキャリア形成が図られます。

情緒面も含めた引継ぎの質は組織と個人の長期的な成長にとって欠かせないと言って良いでしょう。

引継ぎが問題となる場合

少し前になりますが、名古屋駅で新幹線のぞみの台車に大きな亀裂が見つかった問題、JR西日本の乗務員が新大阪駅でJR東海の乗務員に引継ぐ際、「異臭はあったが異常はない」と口頭で報告したことが調査の対象となりました。

2015年にリクナビNEXTジャーナルが異動・転勤時の業務引継ぎに関するアンケートを行った(20代、30代276名)ところ、65%の人が引継ぎに不満を感じており、その理由は

①引継ぎ資料がわかりずらい60.8%

②引継ぎ資料・内容に漏れがある50.8%

③引継ぎ資料がなかった(口頭の引継ぎ)48.5%

でした。そのほか、引継ぎ相手の態度が横柄・いい加減、十分な引継ぎ時間がないなども不満の理由としてあがっています。

業務の遂行が複雑となり、また効率的・最短のビジネスの遂行を求められるようになり、日本企業の長年の伝統ともいえる引継ぎが難しくなりつつある実態が推察されます。

前任の引継ぎが不十分で立ち上がり苦労しておられる方も多いかもしれませんが、是非そのご苦労の経験を、より良い引継ぎに活かしていかれるようにと願います。